徒然もの書きぱん

適当にアニメとかについて書いてます。今期は何について書きましょうか。

アニメ『月がきれい』感想/自分の好きが、誰かの好きになる

 こんにちは。

 2017年春、素晴らしいアニメがたくさんあったクールで、僕の中で光り輝いていたのはこの『月がきれい』でした。1クールという短い時間で、大好きと言い切れる作品と出会えて本当に良かった。
 未視聴の人がこの記事を読んで少しでも興味が湧いて、視聴済みの人が何度でも見直したくなる記事になることを祈って。
 ネタバレしています。ご注意ください。

最初に

 この作品は、小説を書くことを趣味とする小太郎と、走るのが好きな茜の恋愛模様を描いていく作品であった。その恋愛は、甘酸っぱいと言うにはあまりにも過酷であったように思う。数々の困難を乗り越えていったからこそ、最初から最後まで、作品が終わっても心に残る作品になったのだろう。

小太郎と〇〇

小太郎と友人

 大地とろまんは、小太郎の友人として終始登場していた。彼らの行動はとても子供っぽかったが、小太郎を年齢相応のこどもに戻していた。そして彼らはふざけながらも、小太郎と茜の恋を応援していた。クラスメイトがこそこそと噂話をしていても、彼らだけが小太郎を茶化し見守っていたように思う。遊園地でろまんは、小太郎と茜とのことを心配していた。大地もきっと、そういうことがあったのだろうと思える。最初から最後まで良き友人だった。

小太郎と大輔

 本屋では小太郎の相談を聞き、小説や恋愛で小太郎の力になっていた。小太郎が茜に、茜が小太郎にそのままでいいと言ったように、彼もそのままでいいと伝えていた。二人が会える場所を提供することで手をつなぐことができたし、お祭りに行くこともできた。ふたりにとって信頼できるお兄さんとしてずっと協力してくれていた。

小太郎と両親

 「ありがとう」
 自分の将来を考えるとは、大事にしたいものを見つけることだと思う。小太郎にとって、好きなことと茜がもっとも大切である。母親が将来思い描く小太郎の姿と、小太郎自身が思い描く姿はもちろん違う。だから最後まで衝突する。そしてそれを解消するには意志ををぶつけ合い、片方が引くしかないのだと思う。
 小太郎は勉強し続けることでその意志を示そうとした。母親はその姿を見て応援しようと思った。その気持ちが小太郎に伝わるには、小太郎は意地になりすぎていたけれども、父親というクッションがいたことで、母親の気持ちは小太郎に伝わっていった。
 夜食を作ってくれたり、自分の体を心配してくれたり。ただ口うるさいだけではなく、お節介を焼きながらも応援してくれている。小太郎がおにぎりを美味しそうに食べる姿から、この家族の関係が見えるようだった。中学生の恋愛を否定するのではなく応援できる両親。本当に偉大だと思った。

小太郎と千夏

 「コタのこと、ずっと好きでした」
 千夏は茜の友人で、小太郎は千夏の友達で、千夏がいたから茜と京都で会い付き合うことができた。ふたりにとって、最初から最後まで重要な人物だった。
 小太郎にとっては、千夏は気さくな友達だったのだろう。体育祭だったり、塾のことだったり。千夏は小太郎のすぐそばにいた。でも小太郎は茜しか見ていなくて、千夏はずっと小太郎しか見ていなかった。千夏の小太郎へ想いは、ずっと半年間溜め込んだものだった。その想いが実ることはなかったけれど、無事に告白することができてよかったように思う。その結果、小太郎と茜がばらばらになったけれど、自分の思いに正直に生きる姿は魅力的であった。引っ越しの時、小太郎の小説を茜に見せたから、茜と小太郎が再び結ばれた。茜に小説を見せることができた千夏の姿勢は、友達を思う姿そのものであったように思う。

茜と〇〇

茜と友人

 茜とクラスメイトは、仲がいいとは言いにくい関係ではあった。けれども茜と小太郎の邪魔をするようなことは一度もなかった。小太郎の友人と同じように茶化したりはしていたが、それはコミュニケーションの延長だったように思う。茜が恋愛の話題を口にできたのは、姉を除いては彼女たちだけであった。
 茜と千夏、葵は陸上部として一緒に切磋琢磨してきた。恋愛について話すことはなかったが、陸上で支え合ってきたことはよくわかった。茜を応援する姿、泣きながら最後の弁当を囲む姿、引っ越しの際に見送る姿。茜が大切な友達で、ずっと一緒にいたいということが伝わってきた。
 話す内容も接し方も違う友人たちだが、茜にとって大切な人間関係だったと思う。

茜と姉

 茜にとって姉は、恋愛相談の相手であった。なにかあると姉に報告して、どうしたらいいか相談していた。そしておそらくこの作品の中で、茜を一番心配していたのは姉だと思う。千夏が小太郎を好きになったこと、小太郎が茜と同じ高校を受けること。常に警鐘を鳴らしていた。それでも応援していたし、うまくブレーキをかけさせていた。ずっと付き合うわけじゃないのに責任を取れるのか。きっと自分が言われたら腹が立つだろう。でも誰かがそれを言わないと、茜は何も考えずに小太郎に前のめりになってしまうかもしれない。考えさせる心の隙きを作っていた。自分の恋愛を楽しみつつ、妹の恋愛を心配するお姉さんだった。

茜と比良

 「好きなんだ。お前、楽しそうじゃん。走ってる時。」
 比良はずっと茜が走る姿を見てきたし、ずっと告白するタイミングを見計らっていた。茜がレースで失敗した際、問い詰めていたのも比良だけだった。茜が本気で陸上をしていたから、比良も本気で怒ったのだろう。それだけ、比良が陸上をしている茜と向き合ってきた証拠なのだと思った。
 だから小太郎が茜と付き合っていることを知った際、現実味のないような反応をしていた。茜の一番近くにいる男は比良自身だと思っていたし、周りから見てもそうだった。茜に告白した内容からも、茜のことが本当に好きだったのだと思う。別れ際も、茜の陸上を応援していた。茜から見て比良は、良き友人だったのだと思ったし、最後は比良にとってもそうなったのだと思う。

小太郎と茜

 このふたりの組み合わせは理想の人間関係であった。それは恋愛という軸だけでなく、人間としてそうであったように思う。
 以降は、ダイジェストでまとめつつ、キャラクターの心情と感想を書き連ねた。

付き合うまで

 小太郎と茜が付き合う前、ふたりはただの友達だった。しかしただの友達というわけではなく、お互いが背中を押しあえる関係であったように思う。

 「そのままでいい。」
 その言葉に、茜も小太郎もどれだけ背中を押されただろうか。走ることをこれまで同様に頑張っていこうと思えた。より面白い小説を書くために、人に読んでもらおうと思えた。互いの一言が、後押しになった。

 「I love youを月がきれいですねと訳したのは、太宰治だっけ。夏目漱石だっけ。」
 小太郎が茜に告白する時、小太郎は好きな作家の言葉を思い出せないほどに緊張していた。僕は、小太郎が告白する時、「頑張れ」と声を漏らしてしまった。一歩を小太郎に踏み出してほしかったからだ。そしてそこに至るまで、数々の運が小太郎の味方をしてくれた。比良が茜に告白するかもと聞いたこと。同級生が付き合っているところを見かけたこと。比良が茜に告白しなかったこと。そして、茜の携帯の充電が切れたこと。すべてが味方をしてくれたから、小太郎は茜に告白することができた。修学旅行で茜が小太郎の誘いを受けたのも、おみくじが味方をしたからかもしれない。一歩を踏み出す勇気と踏み出せる状況は、どこに転がっているかわからない。
 そして小太郎の携帯が没収されたことで、小太郎も茜も互いの状態がわからなくなってしまった。だからこそ、相手のことを考えて考えて行動した。茜が友達に言い出そうと努力したこと。小太郎が千夏の携帯を借りてまで連絡を取ろうとしたこと。ここで諦めてはいけないという気持ちがあったから、ふたりは出会うことができた。だから、もっと話したい、もっと仲良くなりたいという気持ちを強くさせた。

キスをするまで

 付き合うってなんなのだろうか。デートしたり、一緒に帰ったりすることなのだろうか。おそらく、心の距離を縮めることなのだろうと思う。
 小太郎と茜は、直接会って話をすることでお互いを知ろうとした。自分に起こったことを話して自分のことを知ってもらう。話したい、聞いてもらいたい気持ちが、少しずつ高まっていった。その中でも、お互いが頑張ろうとしていることを応援している。そして心の距離が縮まり、体の距離が縮まっていく。手を握りたい。それは心の距離がある程度縮まった証だと思う。けれども、話せない秘密ができることでそこにしこりが生まれていく。千夏が小太郎を好きという気持ちは、茜にとっては不安でしかない。その不安とずっと付き合っていく。大切な友達だから邪険にできない。でも小太郎に告白はしてほしくない。その狭間で小太郎をもっともっと好きになっていく。小太郎を信じようとする気持ちが、茜の好きをより加速させていったように思う。

 「もっと、もっとやる。好きだから。」
 小太郎の出版社からの呼び出し、茜の大会。ふたりが頑張っていこうと思うも、そこに望んだ結果はついてこなくて。それがまたふたりの絆になっていく。頑張りたい、応援したいという関係が続いていったように思う。小太郎はラノベの道には行かず、茜は千夏と和解する。どう進むのが正しいかわからないけれど、前に進んでいこうとする。それが茜の強さだと思った。

 「彼女、だから。付き合ってるんだ、俺たち。」
 遊園地では周囲が茜と比良をくっつけようとするのに対して、小太郎は比良に茜と付き合っていることを言い切る。茜は千夏のことで不安になっていたけれど、この一言で茜は再び安心を取り戻すことができた。そしてより好きになっていく。小太郎のかっこよさは、踏み出すべき一歩を必ず踏み出すことだ。神社での告白も、修学旅行での携帯電話も。これが勇気だと思った。

 「なんか、付き合ってるって感じ?」
 遊園地では、これまで抱えていた不安と対象に心の距離も体の距離も近づいていく。手をつなぐのも、服の裾を掴むのも、顔を近づけて一緒に写真を撮るのも。そして、キスをしようとするのも。より一層恋人らしくなっていった。そしてまた、千夏のメッセージで茜だけが不安の中に落ちていった。

 「安曇くんって目立たないけど、一緒にいると安心する」
 最初、小太郎の魅力を言葉にすることはできなかった。お囃子を練習する姿、思いやってくれる姿、引っ張ってくれる姿、照れながらも名前を読んでくれる姿。そして小太郎からキスをした。いろいろな姿を見て、一緒にいる居心地の良さを言葉にすることできるようになった。

引っ越すまで

 小太郎と茜はいつの間にか本屋で会うことが当たり前になっていって、照れることなく話せるようになった。そして志望校を決めるということは、これからのふたりの未来の方向性を決めることだ。同じ学校に行って長く一緒の時間を過ごす。別々の学校に行って短く貴重な時間を一緒に過ごす。だから迷って当然だと思う。体の距離は心の距離で、遠くに離れてしまえばそれだけ心も不安になって。だから一緒の高校に行きたいと思うのだろう。

 「すげーかっこよかったよ」
 茜の走る姿を見るために、小太郎は茜のレースを見に行った。前回のレースと違って前走でスタートのタイミングを合わせて集中力を高める。茜が走る姿はとてもかっこよくて。茜は3年間頑張ったことを、トラックを振り返ることで思い出しているようだった。自己ベストのタイムは 13.70 秒だった。茜の中学最後を飾った最高の記録だった。茜は小太郎が見に来ていたことに驚いたけど、その表情はとても嬉しそうで。
 素直に言葉を伝えられる、このふたりの関係が本当に大好きだって思えた。

 「ずっと一緒にいたいし、本気だから」
 小太郎は茜が引っ越す話を聞いて、茜が行こうとする高校に行くために小太郎は真剣に勉強を始めた。小太郎は茜が引っ越すと聞いても、遠くなっても大丈夫と安心させる事を言う。内心不安だろうに、それでも茜との関係をずっと続けていたという想いが溢れた言葉だったように思う。
 茜は祭りでの小太郎の姿を見て改めてかっこいいと思った。けれども、小太郎は茜が比良とふたりでいたことが許せなかった。小太郎は茜のことを彼女じゃないといい、茜は安曇くんと距離を置いて呼ぶ。そして小太郎は不機嫌でしか茜に気持ちを伝えることができず、茜はどんどん不安になっていった。ふたりにとって楽しくなるはずだった祭りは喧嘩のきかっけにしかならなかった。後悔するように後ろを振り向いても茜はいなくて、自分の行動に嫌気が差して。それでも小太郎は自分から謝ることができないし、茜もどうしていいかわからない。
 ふたりは喧嘩をしたことが初めてで、どうやって元の距離に戻せばいいかわからない。あれだけ仲の良いふたりが喧嘩をするなんて想像もつかなかった。家で後悔して、連絡しようとしてもできなくて、寝ようと思っても寝れなくて。ふたりの溝は、時間が経つにつれて深まっていった。それでも茜は、自分との関係を続けようとしていることに改めて気づけた。2時間かけて通うような遠い高校に、自分と一緒に通うために本気で勉強しようとしている。不安で不安で仕方がないけど、こんなにもふたりは想い合っている。溢れんばかりの気持ちが、茜からのキスに繋がったのだと思う。自分とのことをこんなに考えてくれている。その気持ちをキスでぶつけたのだ。2回目のキスは、茜からのキスだった。

 「ありがとう、茜ちゃん」
 クリスマスを前に、茜は小太郎のために手編みのマフラーを、小太郎はハンカチを用意する。手編みのマフラーはただ温かいだけではなくて、茜の気持ちのあたたかさがこもっていた。茜は一生懸命な小太郎を応援しつつ、家族のことを気にかけている。自分が応援されたから頑張ってこれたことを思い出していた。お互いを励まし合い、別れ際に3回目のキスをした。3回目は小太郎からだった。

 「小太郎くん、めちゃくちゃがんばってくれたし、それだけで十分。ありがと。」
 茜は小太郎が一生懸命頑張ってくれたことを知っている。一緒にいる時間を守ろうとしてくれたことを知っている。しかし小太郎にとっては申し訳無さのほうが強いのだろう。茜はそんな小太郎を優しく見守っている。

 「わたしずっと、不安で、不安で、小太郎くんに迷惑ばっかり。それが、一番つらい。」
 そしてとうとう、千夏が小太郎に告白をした。小太郎は茜に伝えないことでなかったことにした。茜はそれを知っていて、いつ報告してくれるのかずっと待ち続けていた。茜は、自分が小太郎から好かれているのはわかっている。それでも茜がずっと抱えていた秘密が小太郎の秘密になって、それがふたりの関係を真っ二つにしてしまった。半年抱えた不安が爆発して、その不安はお互いにとって抱えきれないものになってしまった。どうしていいかわからない。それが茜の不安で、茜を見た小太郎が感じた気持ちだ。引っ越しは茜のせいではないし、受験に失敗したのも小太郎のせいでない。そんな、どうしていいかわからないけど好きの気持ちが詰まった茜からのキスが、中学生活最後のキスになった。

 「この先はどうなるんですか?」
 小太郎はどうすればよかったのだろう。謝ればよかったのだろうか。
 茜はどうすればよかったのだろう。千夏のことを伝えればよかったのだろうか。
 そうではない。ふたりにとって重すぎる荷物を背負ってしまったのだから、その荷物をふたりで持つか、ふたりで捨てるしかない。
 小太郎と茜にとって、いものマスコットは相手の分身だ。いものマスコットを触るという行為は、相手を思い出すことにつながっている。そのマスコットを、茜は家に置いていこうとした。小太郎にこれ以上辛い思いをさせないように、終わりにしようとした。でも小太郎のネット小説を読み、関係を続けたいと思った。茜が小太郎を諦めようとしていたところを、小太郎の小説が茜の中で希望としてつながっていったのだ。
 恋愛は信じるだけでは成り立たない。行動して、諦めて、でも諦められなくて、その葛藤の中に形がある。小太郎は小説を書くことでその想いを形にした。口で伝えてもうまく伝えることができない。自分の小説で、茜への嘘偽りのない気持ちを伝えきったのだ。

 「初めての恋だから、まだ何も知らなかった。すごい緊張して、手のつなぎ方、キスの仕方。友達にも秘密で、恥ずかしくて。」
 「いつもいつも、どうしていいかわからなくて。だけどあの時、勇気を出して伝えてくれたから。ずっと一緒に歩いていけるって、信じられた。」
 「好きな人が、自分を好きになってくれるなんて。」
 「奇跡だと思った」

 それから、ふたりの恋人としての人生が続いていった。大人になった小太郎と茜は、これまで以上に距離を詰めていって、幸せになっていった。二人にとって、一生で一度の恋になった。

最後に

 この作品は自分にとって、小太郎の人生をかっこいいと思うものでした。小太郎には、一歩を踏み出す勇気があって、趣味を頑張れる努力があって、夢を追い続けられる強さがあった。
 彼はずっと小説を書いてきており、賞にも応募してきた。落ちても諦めずに書き続けて、人に読んでもらうことで力をつけてきた。出版社の編集に純文学の才能がないと言われても、純文学を続けてきた。もちろん茜がいたからというのもあるだろうけれど、そうやって前にすすめる小太郎だから、茜と一緒になれたのだと思う。
 僕は、彼のように自分の好きで、誰かの好きをつくりたい。そのために頑張っていこうと思えた。背中を押してもらえた。自分も同じように誰かの背中を押せる。そういう何かを作っていければと思った。

 月がきれい。それは、月のように美しい、背中を押してくれる物語でした。

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