徒然もの書きぱん

適当にアニメとかについて書いてます。今期は何について書きましょうか。

映画『アイの歌声を聴かせて』感想

映画『愛の歌声をを聴かせて』を見てきました。
ainouta.jp

いい作品だと思ったので久しぶりに記事を書きました。この作品は、表面的にはロボットが人間と友達になり絆を結んでいく話なのですが、非常に狂気的でした。
シナリオや演出問わず、感じたことを書いていきます。

1. 日本的風景とロボット社会の調和について

 主人公が住む家は、日本らしさのある木造建築なのだが、その内部は多くの能動的なロボットによって制御されていた。ロボットがいる世界というのは無機質になりがちだが、この世界ではロボットが馴染みやすい世界というよりは人間がいる世界にロボットが配置されたような世界になっていた。田植え用の人型ロボットに笠をつけていたりと、かかしのような装飾をさせており日本的風景の延長線にロボットがいたかのような景色になっていた。他の作品ではみたことのないような馴染み方だった。

2. 本物のミュージカル的演出

 ミュージカル的な演出は、現実のような空間を舞台にしつつキャラクターの内面を豊かに表現するときに使われると思うが、実際にはその世界に対して影響していない。つまり、キャラクターたちの仮想世界での出来事であり現実には何も起こらない。
ただこの作品ではミュージカル的な演出をしているにも関わらず、すべてのことが実際に起こっている。現実世界では表現できないことを表現することで、キャラクターたちとロボットの感情のずれ方をしており、今まで感じたことのないおもしろい違和感を味わうことができた。
個人的にミュージカル的な演出を虚構として処理するか現実として処理するか悩むことが多いので、このように全てを現実として描き切ってくれたことはこの作品の見方を大きく変えてくれた。

3. 感情的な人間と感情豊かなロボット

 この作品は高校生が主人公であり、自分の感情をうまく制御できない一面がたくさん描かれている。彼氏に対して気持ちをうまく伝えられない女子や、自分の後悔を相手に伝えられない男子、など。
その一方で感情豊かに見えるロボットには、感情という曖昧なものはない。観察による状況分析と奇想天外な行動によって場を解決に導いていた。
感情豊かに見えたロボットにはネガティブな面が薄いため、感情の豊かさが不気味に見えがちであったこともロボットであることの強調になり興味深かった。

4.純度の高い気持ちへの恐怖と信頼

 この作品では幸せという曖昧なものを主人公に与えようとする。ただ幸せを理解することはできないため、その幸せを定義して実現する。友達がいれば幸せ、笑っていれば幸せ、などである。その状況を作り出すために、ロボットなりの思考の果てに行動し、その行動を多少なりとも理解する人間たちと信頼関係を築いていった。

 この面だけを見るとロボットの思考と行動が、人間を幸せにしたと捉えることができるのだが、僕にはその行動があまりにも狂気的に見えてしまった。
主人公たちに信頼されたロボットは、主人公の幼い頃に作られた人工知能であり、ずっと主人公のことを見つめていた。あらゆる手段を秘密裏に使い見守ってきた。このロボットがとってきた行動は、はっきり言ってしまえばストーカーに似たものである。ただしその行動原理に自分の感情は含まれず、機械的に命令を遂行していたという点では大きく異なるとは思う。その命令に対して意志を持ち行動していたように見えことこそが、ロボットというものに対して人格があると思えた瞬間であり、同時に怖さを覚えた瞬間でもあった。

 ロボットが幸せという曖昧なものに対して行動できることに対して好意的な気持ちを持った一方で、曖昧なものに対して自身の思考だけで行動できてしまう恐ろしさがあった。そしてその行動が人間的であればあるほど、人間にはできない特殊能力を危険だと思ってしまうのだとも思った。

 今思うとアンチロボットの社員の感情を味わう一方で、ロボットを開発し続ける希望的な研究者の感情も味わっていたのかもしれない。

 下心のある行動にほど人間味を感じ、そこから相手への感情だけを取り出してしまうと狂気味を感じてしまう。ただその気持ちを信頼することができたときに、その感情から狂気が消えて気持ちを受け入れられるようになるのかもしれない。

 純度の高い相手への感情を狂気と見るか愛と見るか、何を基準にそう感じているのかを考えるきっかけになった。

5.最後に

 この作品は人によって見え方が大きく変わると思います。青春として見る人もいれば、ロボット社会へのアンチテーゼと見る人もいると思う。
 個人的な意見としては、その全てでありつつも一つの作品としてまとまった素晴らしい作品であったように思う。皿としては完成されているんだけれども、見た目も味もにおいも全部がチグハグなのにまとまっている。そんな作品だったように思います。
 この作品を人に伝えることは難しいけれども、たくさんの人に見てもらいたいなと思いました。