徒然もの書きぱん

適当にアニメとかについて書いてます。今期は何について書きましょうか。

ラノベ『冴えない彼女の育てかた』8巻の感想|冴えカノ

はじめに

 こんにちは。

 冴えカノ8巻が発売されて1週間ぐらいが経ちましたかね。と思いましたが、発売日が20日だったのでまだ全然ですね。
 あらかじめ内容予想記事を書いていましたが、全然これっぽっちも当たってなくて良かったです。純粋に楽しめました。というわけで感想を書いていきたいと思います。
 ちなみに内容予想記事はこれです。www.palepalette-blog.com

感想

扉絵

 まず飛び込んでくるベレー帽をかぶった加藤。頬を赤らめながら真剣な顔。その次はbressing softwareの4人が集まっている。メガネをしていない倫也とお団子の髪型をやめて豊ヶ崎の制服を着た出海が印象的。ここで加藤のポーズが変わっていないこと。さっきとはうってかわってニッコリとした表情。ちなみに今回、美智留はこれが唯一の挿絵。美智留ファンは怒ってもいい。

新メンバーの出海

 英梨々に負けたくないという気持ちが伝わってきた序盤。美智留と一波乱起こるかと思ったが特に何もなかった。

英梨々の学校の様子

 7巻と同じように学校でもサークルの時と同じように接することにした様子。今までの孤高の存在であったキャラクターを捨て、等身大の自分で生活することにした。これはやはり倫也との距離を空けたくないということなのだと思う。サークルをやめて同じ時間を過ごせなくなった分、できるかぎり同じ時間を共有したいのではないか。

英梨々と恵の埋まらない溝

英:あ
恵:あ……
英:……恵
恵:……うん
英:い、今、帰り?
恵:えっと、まあ……
英:そ、そう……
恵:……
英:……
恵:じゃあ
英:あ……

よりを戻したい英梨々とその素振りを見せない恵。挿絵の切なそうな、気まずそうな英梨々が印象的。このふたりはもう戻れないのだろうか。

キスにより一歩進んだ詩羽

 卒業しても倫也との距離感は変わらず。むしろ手をつなぐなどの接触が増え、倫也を意識させようとしている。もしくは単純に仕事がつらく、倫也にからだだけでも甘えたいのかもしれない。心の甘えは見せられないけれど、触れることで少しでも自分を取り戻そうとしているのかもしれない。

前回の失敗を反省し、その反省を活かそうとする恵

 倫也の負担を考え、過去の失敗を活かそうとしている。1巻では倫也がひとりで考えていたプロットだが、新たなスタートとなる8巻では恵とふたりで考えている。これが1年の積み重ねであり、積み重ねた結果の関係であるように思えた。
 また英梨々について、

恵:わたし、結局最後まで、英梨々のこと、わかってあげられなかった
倫:そっか……
恵:英梨々が、何を思ってサークルを辞めるなんて決断したのか。どうして安……わたしたちと離れてもいいなんて思ったのか
倫:それがまあ、クリエイターの性ってやつなんじゃないのか?

と話している。恵が言っているのは、なぜ倫也たちとゲームを作ることが出来る今を捨てて別のところに行ってしまったのか、ということだろう。恵にとってはこのゲーム作りというのは青春であり、失いたくない大切な時間なのだと思う。英梨々にとってもそれは同じだが、同人活動は遊びではなく仕事の一面もある。だからこそ、自分を大きくステップアップさせる紅坂の話を選んだのだと思う。それ以上に、あの状態でサークルに残っても英梨々とサークルの両方にとって良い展開にはならなかった。そこが一番大きいだろう。

新鋭クリエイター波島出海

 倫也のプロットからキャラクターの表情を書き起こす力。それに付随するサブストーリーの展開力。倫也の負担を減らすことまでできる優秀な人材であることが改めて示された。

ディレテクター兼プロデューサーとして有能な伊織

 倫也のプロットに対して内容面ではなく進行面でアドバイスをする。負担の大きい倫也の代わりとなる優秀な人材である。

『伝説』を見積もることは、プロデューサーはやってはいけないことだよ倫也君。『想定外』を想定しちゃいけない

このセリフには深く納得した。あくまでも進行面と内容面で堅実な仕事をするのが役割であり、クリエイターと同じ目線で仕事をしてはいけないのだ。一歩引いて制作を俯瞰することが求められている。

倫也と英梨々のスカイプ

 内容は加藤との仲、製作の愚痴、出海の自慢。他愛もない会話だが、この会話が大切なのである。

だって、俺は今でも、こいつをずっと恨んでる。
そしてこれからも、ずっとこだわっていくんだろう。

伊織へのお願いと加藤の気持ち

 伊織への依頼は間違っていないとしても、それを相談されなかった加藤は怒っている。

恵:だからなんでそういうサークルの大事を相談せずにひとりで決めちゃおうとするかなぁ安芸くんは
倫:いや、だから今こうして相談している訳で……
恵:遅いよねそれ、相手と会う約束しちゃってからだよね? もうサークルの方向性がそっちでいくって前提だよね?
倫:じゃ、じゃあ……加藤はこの方針に反対なのか?
恵:そうじゃないでしょそういうことじゃないでしょ
倫:うあっ……

恵は倫也から信頼されていることがわかっているからこそ腹立たしいのだと思う。腹立たしいというか寂しいのかな。結局は全て自分で決めてしまおうとしている倫也に置いて行かれているようで。そういう気持ちに加え、倫也だけに背負わせないようにしたいという思いがあるのだと思う。決定することは責任が伴う。責任を倫也だけに被せないようにするために、恵も一緒にかぶろうとしてくれているのだろう。
 美智留も言っていたが、倫也の恵に対する対応には遠慮がない。お互いの信頼関係の上に成り立っている関係であるが、お互いの関係に甘えがない。だから恵も強く言えるのだろう。

倫也のライターとしての心構え

 自分の作品に期待してくれた詩羽のためにも、なにより自分の作りたい作品を作るためにも伊織に頼る必要があった。今までは作ってもらう側の立場だったが、作る側の立場のみに立つことを明確に宣言した。
 1巻の詩羽と英梨々の罵倒を思い出しながら、今の自分の内容に足りないものを考える。そういうことが自然とできるようになっている成長を感じた。
 あとは恵の存在だ。今まではひとりで抱え込んでひとりで苦悩していた。しかしひとりが抱えてもうひとりが苦悩する関係が出来上がっている。だからこそ倫也はこれまでとは異なって冷静でいられるのだろう。恵がいなければこのサークルは本当になくなっていたかもしれない。

恵とのデート

恵のわがまま

 恵は倫也とデートするときだけわがままを言う。普段から自分の考えは伝えているがわがままは言っていない。この時だけ恵は女の子になる。

お互いの気持ちを確認するようなやりとり

 倫也と恵のセリフが印象的である。

恵:じゃ、安芸くん
倫:……あ
恵:去年もすごかったよね、あのエスカレーターのところ
倫:……
恵:ネタ集めだよ、安芸くん
倫:ネタ集め、か……なら、しょうがないな
恵:うん、しょうがないね。
倫:走るなよ?
恵:安芸くんが走らなければ大丈夫だよ
倫:転ぶなよ?
恵:安芸君が道を切り開いてくれれば大丈夫だよ
倫:あと……離すなよ?
恵:……安芸くんが、しっかり握ってくれてれば、大丈夫、だよ?
倫:じゃあ、行くぞ、加藤……
恵:うん、行こう、安芸くん

さすが扉絵のシーン。お互いの気持ちを確かめていくような、そんなやりとりがとてもよかった。
 

恵と英梨々のきっかけ

 恵の怒った顔が描けたからこそ今のふたりの関係がある。そんなことをしみじみと感じさせた。倫也の語りがよかった。

加藤……いや、叶巡璃というメインヒロインは、ここに、思い出を拾いに来た。
それも、主人公ではなく、他のヒロインとの。
それは、主人公とふたりだけの、ギャルゲーの必須イベントのような要素ではなかったかもしれないけれど。
でもそれも、メインヒロインの人生を彩る大事な要素だって……
彼女が、決して記号なんかじゃない、生身の人間なんだって証にも思えた。

丸戸先生の作品の真骨頂はここにある気がする。主人公とヒロインが幸せになるだけじゃない。ヒロインが他のキャラクターとの信頼を深めて、初めて幸せをつかむことができる。パルフェも、この青空に約束をも。そういう関係を描いてる。
 あと、最後の記号とはフラットを指しているのだろう。フラットなんかじゃない、感情を持った人間なんだっていうことを。1年前はわからなかったことを感じているのだと思う。

メインヒロイン加藤恵

恵:ね、安芸くん……ううん、倫也くん。覚えてる……? あれから、ちょうど一年だよ?
倫:加藤……
恵:今の私は、あの時よりも、あなたの物語の、ヒロインに近づいているかな? あなたの力になってるかな? そして、覚えてる……? あれから、だいたい一月だよ?
倫:あ……ちょっと、おい
恵:今のわたしには、もう、コーディネーターも、演技指導の先生もいないけど……。それでも、あなたを元気にすること、できてるかな? サークルに、あなたに、必要な人間で、いられているからな?
倫:俺は、加藤が……恵がいれば、なんとか勝てるんじゃないかって、気がしてる。だから、これからも……よろしく頼むな? 一緒に血反吐、吐こうぜ?
恵:……一緒に頑張ろうね、倫也くん
倫:ああ……
恵:二人で、みんなで……今度こそ、最高のゲーム、作ってみせようね?
倫:ああ……っ!

特に語ることはありません。でもこれが本当の加藤なのかなって。フラットに見せてるのは振りで、これが本当の彼女なのかなって。そう思った。

詩羽が伝えたかったこと

聞いて倫理君……澤村さんはね、本当にあなたたちのことを気にかけてる。あなたたちに、成功して欲しいって思ってるの。でもね、でも……今の澤村さんは、もう、あなたの知っている澤村さんじゃない。だから、何があっても、彼女の敵にならないで。せめてライバルでいてあげて。今の彼女を、受け入れてあげて欲しいの。あなたも、波島さんも……そして、加藤さんも。

英梨々の実力は以前のものとは比べ物にならないくらいで、柏木エリとして数段上の段階にまで進化していた。つまり、blessing softwareの『cherry blessing ~巡る恵みの物語~』を超えるということが難しくなったということである。伊織の言葉を借りるなら、

時間が経つにつれ、前作は“伝説”になり、次回作の“重石”へと変わっていく

時間が経ったことにより柏木エリのレベルが上がり、次回作を期待するファンもそれと同等のレベルを期待することになる。だから柏木エリのレベルアップはblessing softwareにとって痛手にしかならない。出海がプレッシャーを受けていたのも前作と比較されるからだ。だから詩羽は敵にならないで欲しいと願ったのだ。
 それに対して、恵は自分たちを置いて成長してしまった英梨々に対して複雑な気持ちを抱いている。また最後の、

そして、わかってくれない親友への、苛つきと……

は画力向上について言っているのではないと思われる。これは、ゲームの主人公が倫也に似ており、ヒロインが英梨々に似ていることが要因であると考えられる。
 まず、恵が英梨々に理解してもらいたかったのは、倫也に恋愛感情がないということだと思う。英梨々は恵は倫也に対して恋愛感情を持っていると考えており、それによる6巻での後ろめたさがあったのではないか。そこをまず払拭したいと考えていると思う。
 それを踏まえて、ゲームの主人公が似ているということは、現実では叶わない想いをゲームで叶えようとしたと捉えることができる。恵が怒っているのは、倫也に恋愛感情を勝手に持っていると思われ、その上それによって倫也への想いを諦めようとしている、と見えたからではないだろうか。(ゲームのキャラデを決めたのが英梨々ではない可能性もあるのであくまでも想像です。)

まとめ

 8巻の感想と考察を交えながらお届けしました。今までよりも印象的なセリフ回しが多かったように感じます。出番のなかった美智留、自信を失った出海、英梨々に思うところのある恵、敏腕プロデューサーの伊織。そのあたりがどう物語を作っていくのか楽しみです。英梨々と恵の仲が戻るのは最終巻な気が勝手にしています。作品を作り上げてよりを戻すのではないかと。勝手な想像ですね。9巻も楽しみに待ちたいと思います。刊行ペース的に早ければ10月ぐらいには出そうですね。

 以上です。それではまた別の記事でお会いしましょう。

冴えない彼女の育てかた (8) (富士見ファンタジア文庫)

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